夏読の報告
心理学の分野の一つに認知心理学(認知科学)と呼ばれる分野があります。この認知心理学は,人間の知覚,記憶,思考といった知的側面について研究する分野です。特に、人間が様々な情報をどのように処理しているのかという問題意識に立っています。この認知心理学の理論に基づいて、学習におけるコンピュータ利用を考えると非常に有効です。
認知心理学では、知識というものを個人の頭のなかの情報処理ではなく、他者や人工物(道具、設備、シンボルなど)と「わかち持たれた」ものだとういうとらえ方をします。これは、知識が自己だけでなく,他者や環境との関わり合いの中で,社会的に構成されるという社会構成主義と呼ばれる考え方に立っています。
つまり、学習は個人の頭の中の記号操作ではなく,学習者が環境・他者と協調して知識を構築する営みであるということです。例えば、人間は適切な道具(さまざまな通信手段)を使いこなして、他者とコミュニケーションを交わし、文字や図表などの表象を活用して、共同体の知(文化)を築くというわけです。
さらに、知識というものは、他者や人工物とわかち持たれるのですが、学習者本人が、自ら吟味し、探究して、創りあげていくものだとします。学習者本人が学びたい、知りたいという要求に応じて、必要な手だてを探し、相互に供給しあうものなのです。知識は他者から単に与えられたり、一方的に伝達されるものではないという考え方です。
この「わかち持たれた知能」と「学習者中心主義」を基本において、総合的な学習の時間やグループ学習から、新学習指導要領における「思考力、判断力、表現力の育成」まで、教育におけるコンピュータ利用を考えると極めて有効であることがわかります。
先頃、公表された文部科学省の「未来を拓く学び・学校創造戦略.事業目的」のなかに「学びのイノベーション事業」というのがありました。
それには「情報通信技術の特性を生かすことによって、子どもたち一人一人の能力や特性に応じた学び、子ども同士が教え合い学び合う協働的な学びを推進し、グローバル化する21世紀の知識基盤社会を生き抜く子どもたちに必要な力を育む」と書かれています。
恐らく、この背景には先ほどの「わかち持たれた知能」と「学習者中心主義」の考え方が流れているのではないでしょうか。何のためにコンピュータを利用するのか、という基本を押さえておくのも無駄ではないでしょう。
以上は、岩波新書『新・コンピュータと教育』佐伯胖著を参考にしました。 夏読の報告です。