ICT活用失敗学
第3回教育ICT研修会は、9月14日(水)「ICT活用失敗学」と題して都城西高等学校の村上啓一先生に報告していただきました。先生の担当は生物ですが、その授業に図は欠かせないということで、黒板への板書から始まり、模造紙、シルクスクリーン、拡大コピー、プロジェクターとその利用が変化していったということです。
授業者が陥りがちな罠
プロジェクターの使用は、図を書く時間が短縮できることや実物の映像を見せたいという思いから始まったそうですが、当初は自分の授業力のなさをICTで補おうとしていたと振り返っておられます。生徒の興味を引くことに力が入り、プレゼンを見せることで理解も広がり、授業が展開できると思われていたそうです。ところが生徒の反応を聞くと、「授業が速い、考える暇がない、眠くなる」といった感想が多く、特に能力の高いクラスほど評価が低かったということです。生徒は自分で考えたり、イメージしたりする学習に興味を示すというこうとに気づいていなかったということです。
つまり、プレゼンが授業者の独りよがりになり、自己満足の授業になっていたこと、自分で考えることや質問する時間を保障していなかったと反省されたそうです。授業に大切なのは、ICT機器を使うことではなく、授業者が自ら力をつけ、生徒との応答を繰り返すリズム感のある授業が大事だとういうことに気づかれます。ICTはあくまで授業の小道具であり、エッセンスではあるが、主体はあくまでも授業者自体が魅力的な授業を行うことだと強調されました。場合によっては、あえてICTを活用しないことも必要で、生徒の動きを見ながら「生徒に考えさせる」授業を目指したいということです。
ICTコンテンツの作り方
当日、先生はさまざまなICT機器を持参され、それらを使ってこれまでの自作教材(コンテンツ)を紹介されました。そのコンテンツの多様さに驚かされました。その資料は教科書会社から買ったCDやDVD、インターネットから探したもの、自分でテレビなどから録画したもの、問題集や参考書をスキャンしたもの、ペイントなどのソフトを用いて自分で描いたもの、エクセルで作ったグラフなどありました。そのなかで、教科書準拠と自主教材の場合のメリット、デメリットについても触れられました。
実物の代わりに模型や写真、動画などを見せるということですが、写真がリアル過ぎたり、プレゼンの効果に凝り過ぎると生徒は目移りして肝心の中身を覚えてくれない欠点もあると指摘されました。場合によっては、略図(手書きの良さ)やアニメーションが有効で、その使い分けに腐心するということです。
様々なICT機器と活用法
これまでのICTの利用は、スクリーン常設の教室でパソコンとプロジェクターを使うことから、普通教室では模造紙の裏に板磁石をつけて黒板に貼り付けスクリーンにしたり、ノートパソコンもより小型のもの(メビウスムラマサ)を求めたり、最近はUSBメモリが利用できるプロジェター(PCレスプレゼン)でパワーポイントを使って動画なども映したり(フラッシュアニメは不可)されているようです。
他に、安価なUSBカメラを実態投影装置の代替として使う、Ipodをプロジェクターにつなぐ、タブレットPCを活用する(慣れるのに時間がかかる)などを実演されました。今は、生徒の見ている顕微鏡の映像をみんなで見る事はできないか(無線で飛ばせる顕微鏡カメラはないか)などを模索されているようです。
ICTの活用でも、生徒が自発的に参加できるような教材コンテンツを作る、動きや変化などわかりにくいところは繰り返し見せる、プロジェクターの活用時間を3分~5分程度にする、定着を計る部分ではあえて紙媒体で行わせるなど、工夫が必要だということです。また、高校の演習の授業ではテーマや準備が整理してあればプレゼンも使えるが、さまざまな質問や準備していない関連資料を探すのに時間がかかり、黒板の利用が有効な場合もあるそうです。これはデジタル教科書や電子書籍にもあてはまり、キーワードがわかっているときには検索はできるが、紙媒体のようにぱらぱらめくって、前後の内容から必要な図を探すことなどには限界があるということでした。
なぜ、高校でICT活用が進まないか
なぜ高校の先生はICTを活用しないのかということについて、個人的な見解として、1,ICTを活用した授業を考えた事がない。ICTとは何かわからない。2,面倒くさい(意欲がない)。3,効果がないと考えている(時間の無駄)。4,機材がない。足りない。管理重視で使わせてもらえない(使わないから買ってもらえないという負のスパイラル)5,機材があれば使ってみたいが使い方がわからない。どのような場面で使えばよいかわからない。準備に手間がかかる。慣れるまでに時間がかかる。などをあげられました。やはり職場内研修が大事だなと思わされました。
最後に、今、気に入っているICTとして、Iphone、モバイルルータ、Ipad、グーグルカレンダー、マークシートリーダー(調査集計用)、電子書籍本棚「楽々ライブラリー」などを紹介されました。
協議のなかでは、動画コンテンツの作り方が話題になりました。さまざまなダウンロードソフトや編集用ソフトがあり、その紹介や操作法の研修も必要だという意見が出されました。教育用プロバイダーによるフィルタリングの制限もあり、Web上でコンテンツを探す難しさや高校用がまだ少ないこと、編集保存した動画の著作権や共有などが今後の課題としてあげられました。また、前日、県議会で全国最下位という宮崎の教育情報化の実態が取り上げられたことも話題になりました。さらにこの研修会も広げていきたいものです。(当日の写真を撮るのを忘れました。ゴメンナサイ)