汚れっちまった悲しみ
10月13日(土)に第2回街角ブックトーク「勝手に文豪を読み直すミニ講演会」を開催しました。「中也と友」と題して、藤﨑正二氏に語ってもらいました。
中原中也という詩人は、その作品よりもエピソードが話題になりがちですが、今回の講演をきっかけに初めて詩集を読んだと言われる方もおり、この企画の目的が広がっていることに嬉しい思いをしました。
講演は、藤﨑さん自作の詩「先生と呼ばれたくなかった」の朗読から始まりました。詩のボクシングに参加されただけあって、今回は詩の朗読の魅力にも引き込まれた会になりました。
わたしの中也体験として、中学時代(名前を知る)、高校時代(作品名を知る)、大学時代(詩集を買う)、数年前(興味を持って読む)などを紹介された後、中也の代表作「汚れっちまった悲しみに」の特徴などを話されました。
七五調や、悲しみと倦怠がテーマになっていること、口語体が吐き捨てるようになっていることなど、面白い発見もありました。福島泰樹の中也を題材にした「短歌絶叫コンサート」の一部もCDで流されました。
中也の友として、小林秀雄(『在りし日の歌』出版)、大岡昇平(『中原中也全集』編纂)、高森文夫(宮崎県東郷町出身の詩人、中也が一番つらい時に一緒にいた)などを取り上げ、高森文夫との関りが今回のテーマになったそうです。
中也の恋人に長谷川泰子(女優)がいましたが、上京後、小林秀雄との奇妙な三角関係など、残された資料から読み解きました。ただ、中也は泰子についてはあまり語っていないという。作品「朝の歌」「一つのメルヘン」紹介
大岡昇平にとっては「中原を理解することは私を理解することだった」という。作品「夕照」紹介
高森文夫は「含羞の詩人」と呼ばれ、自らをあまり語らなかったことから、県内でも意外に知られていませんが、中也との交流は深く、東郷町の実家に2回ほど中也が訪れています。若山牧水記念文学館にも「高森文夫コーナー」があり、関連資料が展示されています。
文夫は中也との出会いや関係を新聞記事や雑誌などに書き記しています。それらは非常に興味深いものでした。高森文夫「今日降る雨」紹介、「材木」「渓流」「遠い日の冬の旅」紹介
中原中也「一つの境涯―世の母びと達に捧ぐ―」冒頭引用文の紹介
「普通に人々が、この景色は佳いだのあの景色は悪いだのと云ふ、そんなことは殆んど意味もないことだ。人の心の奥底を動かすものは、却て人が毎日いやといふ程見てゐるもの、恐らくは人々称んで退屈となす所のものの中にあるのだ。筆者不詳」
詩とは何かを考えるいい資料です。筆者不詳となっているが、恐らく、中也が書いたものではないかということでした。
トークショーでは、福永慧さん、稲田悟さんからの「作品はあまり面白くないけど、中也の人生はとても面白い」という感想から始まりました。リズムや用語法、悲しみや倦怠の生まれる背景などに話が及びました。
第3部の交流では、参加者から「作品を作家の生活と関連して読むべきか」という質問が出され、これを軸に話題が展開しました。切り離して鑑賞すべきという意見や、作品を理解するためには作者の生活は欠かせないなどの意見が出されました。
中也は「汚れっちまった悲しみに」のフレーズを編み出しただけですごいという意見から、「汚れっちまった」をヨゴレではなくケガレという読み方もあり、印象が違ってくるという話、悲しみにも段階があるという意見、「さびしさ、かなしさ」には、淋しい、寂しい、哀しい、愛しいなどいろんな状態があるという意見も出され、とても参考になる交流会となりました。
当日は『高森文夫詩集』を編纂された本多企画の本多寿さん(詩人)も参加されていて、高森文夫と中原中也との関係や、『誰も語らなかった中原中也』(福島泰樹著)にまつわる裏話なども披露されて、みなさん興味深く聞かれていました。
お代わり自由のコーヒー(200円)も好評で、和やかな雰囲気のもと、さまざまな出会いもあり、楽しいひと時でした。